保護猫を迎える日。それは、飼い主さんにとっても猫にとっても、人生(猫生)が大きく変わる「はじまりの日」です。
しかし、実はこの「初対面〜最初の72時間」の接し方が、
- 信頼関係がスムーズに育つか
- それとも、怖い記憶として残ってしまうか
の分かれ道になりやすいことは、あまり知られていません。
この記事では、
- 保護猫が初日に置かれている心理状態
- 初心者さんがやりがちなNG行動
- 専門家がすすめる「最初の72時間」の過ごし方
- 行動や仕草からわかる猫の気持ち
- 実際の体験談
を通して、「どう接したら、この子の不安を減らしてあげられるのか?」をわかりやすく解説します。
初日がカギ!保護猫は“警戒MAX”状態でやってくる理由
【保護猫の心の変化タイムライン】
●初日
状態:緊急避難モード。ほぼ隠れる。
飼い主のポイント:触らない/追わない
●2日目
状態:こっそりごはん・トイレに行き始める
ポイント:生活音は控えめに
●3日目
状態:部屋を少しだけ探検する勇気が出る
ポイント:「見守る姿勢」を継続
93%以上の保護猫が「最初の3日間は隠れる」
多くの保護団体や保護主のデータによると、保護猫の約93〜95%は、
- 最初の3日間は物陰から出てこない
- ケージの隅やベッドの下で固まっている
- 目を合わせようとすると視線をそらす
といった行動を取ると報告されています。
これは異常ではなく、猫にとっては生き残るための「正常な防衛反応」です。猫は元々、
- 環境の変化にとても敏感
- 知らない匂い・音・人が苦手
- 「安全かどうか」を自分でじっくり確認するタイプの生き物
であるため、初日は「命に危険がないかどうかを必死で調査している時間」だと考えてください。
初日は“緊急避難モード”|体の中では何が起きている?
動物行動学の観点から見ると、猫が強いストレスを感じているとき、体の中では、
- アドレナリン
- コルチゾール(ストレスホルモン)
などが大量に分泌されています。その結果、
- 心拍数が上がる
- 呼吸が速くなる
- 消化機能が落ちて食欲が低下する
といった変化が起こります。つまり、
「食べない」「動かない」「隠れる」=体を守るための防御モードなのです。
このタイミングで、
- 抱っこしようとする
- 大きな声で話しかける
- あちこち動かして写真を撮る
といったことをすると、猫にとっては「知らない捕食者に追われている」ような恐怖体験になりかねません。
信頼を遠ざける!初心者がやりがちなNG行動ベスト5
ここでは、保護現場で実際によくある「やりがちな失敗」を5つ取り上げます。ついやってしまいがちな行動なので、迎える前にチェックしておきましょう。
【保護猫の初日に避けたいNG行動】
1. いきなり触る/抱っこする
→猫の気持ち:捕まえられた!怖い!
2. 目をじっと見つめる
→猫の気持ち:睨まれてる…威嚇?
3. 大きな声・急な動き
→猫の気持ち:危険が迫ってる!
4. 食べないからとしつこく近づける
→猫の気持ち:ごはんが怖いものに感じる
5. トイレの失敗を叱る
→猫の気持ち:排泄=怖い、と誤学習
1. いきなり触ろう・抱っこしようとする
「せっかく来てくれたんだから、早く仲良くなりたい!」という気持ちから、
- ケージの中に手を突っ込む
- 布団の下に隠れた猫を無理やり引っ張り出す
- 逃げる猫を追いかけて抱っこしようとする
といった行動を取りがちですが、猫にとっては「逃げ道を塞がれた恐怖体験」になります。
特に、過去に人から嫌な目にあった経験のある保護猫は、手が伸びてくるだけで「また何かされるかも」と感じやすいです。初日は「触らない」「追わない」が鉄則だと覚えておきましょう。
2. 目をじっと見つめる・追いかける
猫同士の世界では、目をじっと見つめる行為は「威嚇」や「挑発」に近い意味を持ちます。人間側は「かわいいから見ていたい」だけでも、猫からすると「睨まれている」と感じてしまうのです。
また、部屋の中を移動するたびに猫の居場所を確認し、「どこにいるの?」と探し回るのも、猫にとっては「追いかけられている」感覚になります。
最初の数日は、
- 視線を合わせすぎない(チラッと見る程度)
- 見つけてもあえてスルーするくらいの距離感
を意識しましょう。
3. 大きな音や急な動き
椅子を引く音、ドアの開閉音、テレビの大音量…。人間にとっては日常的な音でも、猫にとっては「外敵の気配」に聞こえることがあります。
特に初日は、
- ドアや引き出しを勢いよく開け閉めしない
- 大声で笑ったり怒鳴ったりしない
- 子どもがいる家庭は、猫の部屋だけは静かな空間に
といった配慮があると、猫のストレスを大きく減らせます。
4. 食べないからといって無理に食べさせようとする
初日はほとんど食べない、というのは保護猫ではよくあることです。ここで焦って、
- お皿を何度も猫の目の前に近づける
- 口元に押し付けるようにして差し出す
- 「食べなさい!」としつこく声をかける
と、猫は「ごはん=怖いもの」と認識してしまうことがあります。
理想は、
- 人がいない静かな時間にそっとお皿を置く
- 少しでも食べたら「今日は合格」と思う
- 48〜72時間の様子を、落ち着いて観察する
こと。どうしても心配な場合は、保護主や獣医師に相談しましょう。
5. トイレの失敗を叱る・大きな声を出す
トイレを失敗したときに、
- 「ダメでしょ!」と大声を出す
- 失敗した場所に鼻を近づけて叱る
- ケージに閉じ込めるなどの罰を与える
といった対応をしてしまうと、猫は「排泄=怖い」「この場所=危険」と学習し、かえって隠れた場所でトイレをするようになってしまいます。
まず見直すべきは、「トイレの位置・砂・形」などの環境です。特に、譲渡元で使っていた砂から急に変えると混乱しやすいので、最初は同じ種類を用意するのがおすすめです。
保護猫に安心してもらう5つのコツ(専門家が推奨)
① 目線を合わせず、距離を置く「そっと見守りスタイル」
初日〜3日間は、猫から近づいてくるのを待つ姿勢が何より重要です。
- 猫より低い姿勢で、横目でそっと見る
- 名前を小さな声で呼ぶ程度にとどめる
- 「今は見守る時間」と頭で唱える
これだけでも、猫にとっては「この人は自分を追い詰めない」という安心材料になります。
② 隠れ家スペースを用意する
猫は「自分から全体を見渡せて、相手からは見えにくい場所」を好みます。
- 毛布をかけたケージ
- 段ボール箱+ブランケット
- ベッドの下の一角にクッションを置く
など、「ここにいれば安全だ」と感じられる場所を必ず用意しましょう。隠れたままでも、「その場所を安全基地として認識してくれている」と前向きに捉えてOKです。
③ 匂いやおもちゃで「安心できる刺激」を増やす
猫にとって匂いは、
- 安心か不安か
- 知っている存在かどうか
を判断する重要な情報源です。
- 譲渡元でも使っていた毛布やタオルを一緒に持ち帰る
- 自分の匂いがついたタオルを近くに置いておく
- おもちゃは「無理に遊ばせる」ではなく「いつでも使える場所に置いておく」程度に
など、匂いを通して安心を積み重ねていくイメージを持ちましょう。
④ 静かな環境づくり+落ち着いた生活リズム
初日〜数日は、
- テレビや音楽は小さめの音量で
- 大人数の訪問や来客は控える
- 猫の部屋のドアの開け閉めは最小限に
といった工夫をして、猫が「予測しやすい環境」を整えます。音の刺激が苦手な猫には、一定の音量で流れる環境音やラジオが落ち着きを与える場合もあります。
⑤ 食事・行動を記録して「見える化」する
初心者さんほどおすすめなのが、
- ごはんの量・食べた時間
- 水を飲んだ回数
- トイレの回数・状態
- 姿を見せた時間や行動
などを簡単にメモしておくことです。これは、
- 体調の変化に早く気づける
- 「昨日より少し出てきた」など、進歩が見えることで不安が減る
- 獣医師や保護主に相談するときの大事な情報になる
というメリットがあります。
猫の専門家が語る「初対面で信頼関係を築く方法」
ボディランゲージを読む力を身につけよう
猫は言葉を話せませんが、全身で気持ちを表現しています。
- 耳が横や後ろに倒れている:不安・警戒
- 尻尾を体に巻きつけている:緊張・怖がり
- 尻尾がゆっくり左右に揺れる:迷い・考え中
- 目を細めてゆっくり瞬きする:安心・信頼のサイン
最初の数日は、こうしたサインを「観察するだけ」で十分です。猫からのメッセージに気づけるようになると、接し方の迷いがぐっと減ります。
「鳴かない子」ほどストレスを抱えていることも
「鳴かないから落ち着いているのかな?」と思いきや、実は緊張が強すぎて固まっているだけということもあります。
- 耳がずっと寝ている
- 瞳孔が開きっぱなし
- 体がカチカチに固まって動かない
といった状態が続く場合は、できるだけ刺激を減らし、静かに見守る時間を増やしましょう。
にゃタゾノのリアル体験談|はじめての猫(保護猫)との初対面
にゃタゾノは初めての時からおてんばで、我が家にきて他の動物がいないことで、私だけのお家?といわんばかりに奔放にふるまっていました。しかし、やはり猫には隠れる場所が必要で、あちこち吟味していましたが、ほんのわずかにあけたクローゼットに入り込まれた時は、捕まえることもできず、こまりました。

しかし、このいつでも逃げ込める安全基地があることが、彼女の安心材料になるならそれでいい、ということになり、恥ずかしながら我が家のクローゼットはいつも半分開いています(笑)。
まとめ|最初の72時間が未来を左右する
保護猫にとって、新しい家での最初の72時間は、
- 命の危険がない場所なのか
- この人は怖い存在かどうか
- 自分のペースを守れるか
を必死で判断している時間です。
そのとき、飼い主側ができることはとてもシンプルです。
- 触らない
- 追わない
- 待つ
この3つを守るだけで、数週間〜数ヶ月後の信頼関係が大きく変わります。「早く仲良くなりたい」という気持ちをぐっとこらえて、「安心してもらう土台づくり」に徹すること。それが、保護猫との幸せな暮らしの第一歩です。
参考情報・注意事項
- 環境省「動物の適正飼養指針」
- 日本動物福祉協会「保護猫譲渡ガイド」
- 動物行動学・ストレスに関する海外研究論文 など
※食欲不振や排泄異常が48〜72時間続く場合、呼吸が荒い・ぐったりしているなどの症状がある場合は、早めに動物病院を受診してください。攻撃行動やパニックが強い場合は、保護主や専門家に相談を。


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